トップ仮釈放でもサムスン電子なお「四面楚歌」 大型投資は本格化へ
【ソウル聯合ニュース】韓国サムスングループ経営トップ、李在鎔(イ・ジェヨン)サムスン電子副会長が13日に仮釈放されることが決まった。サムスン電子は総帥の不在という最悪の状況を脱することになるが、依然として「四面楚歌(そか)」の状態といえる。李氏の刑の効力は消滅しておらず保護観察対象である上、ほかの事件の裁判も待ち受けている。同氏は足かせをつけたまま、海外競合企業の攻勢が激しさを増す世界の半導体競争の中でサムスンを導いていく重責を担わなければならない。
◇仮釈放されても経営活動に多くの制約
李氏は前大統領の朴槿恵(パク・クネ)氏らへの贈賄罪などに問われ、今年1月に差し戻し控訴審で懲役2年6カ月の実刑判決を受けて服役している。それから約7カ月で仮釈放となるが、経営最前線への完全復帰とはいかないようだ。
刑執行が免除され有罪宣告の効力が喪失する赦免とは異なり、仮釈放は刑期満了前の条件付き釈放で、法務部の保護観察と特定経済犯罪加重処罰法に基づく就業や居住地の制限などがある。海外出張時には法務部に報告して承認を得る必要がある。
労働団体や人権保護団体、市民団体、さらに与党の一部でも依然として仮釈放への批判が根強く、一気に経営活動の幅を広げるには負担が伴う。
李氏は別の司法リスクも抱えている。2015年のグループ傘下のサムスン物産と第一毛織合併に関し、不当な合併、不正会計の罪で公判中のほか、麻酔薬プロポフォールの違法投与を受けた罪でも起訴されている。
さまざまな制約がある中で、李氏は公判に備える一方、あまり目立たない形でサムスン電子の大規模投資の決定を指揮していく可能性が高い。
◇半導体市場 大型投資で競合他社が先行
サムスン電子を取り巻く経営環境は極めて厳しい。李氏が収監されている間にも環境は急変した。何より競合他社の攻勢が激しい。
ファウンドリー(半導体受託生産)世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)はいち早く向こう3年間の大型投資を決定し、バイデン米大統領の半導体サプライチェーン(供給網)強化構想に応じて米国で生産ラインを増設することを決めた。世界のファウンドリー市場で同社のシェアは昨年54%と、17%のサムスン電子を大きく突き放している。
一方、サムスン電子は今年5月、韓国政府が半導体産業の育成戦略を発表した際、30年までにシステムLSI(大規模集積回路)に171兆ウォン(約16兆4500億円)を投じると表明した。これをすべてファウンドリーにつぎ込んだとしても年間の投資額はTSMCの半分にも及ばない。
また、米インテルは3月にファウンドリー市場への再参入と、米国での半導体2工場の新設計画を発表した。ファンドリー世界大手の米グローバルファウンドリーズ買収にも意欲を見せている。
サムスン電子が世界トップのメモリー分野でも他社が追い上げようとしている。米マイクロン・テクノロジーは世界で初めて、176層のモバイル向けNANDフラッシュメモリーの量産に入った。
スマートフォン(スマホ)事業をみると、サムスン電子はハードウエアに強みを持つものの、ソフトウエアでは劣勢で、収益面で米アップルを下回る。スマホ販売でも中国の小米科技(シャオミ)に押され気味だ。サムスン電子の今年4~6月期の販売台数は世界1位だったが、6月単月ではシャオミが1位となった。
◇資金は十分 投資・M&Aに本腰か
李氏が仮釈放されれば、サムスン電子は先送りにしていた投資を本格化すると予想される。半導体不足と米中の次世代技術を巡る覇権争いに触発された半導体競争が起きなかったとすれば、李氏の仮釈放は難しかったかもしれない。政府が与党支持層や市民団体の反対を押し切るのは容易でなかったはずだ。
サムスン電子としては、国民と政府の期待に応える何らかの形を示す必要に迫られる。まずはこれまでに約束していた国内外での投資の実行に踏み切るとみられる。資金には問題がない。昨年末時点で約104兆ウォンの手元資金があり、今年1~3月期に9兆3000億ウォン、4~6月期には12兆5000億ウォンの営業利益も上げている。4~6月期の業績発表の際、同社は「3年以内に意味ある合併・買収(M&A)をする」と明言した。
世界の半導体大手が生き残りをかけ、おびただしい資金をつぎこんでM&Aを活発化しているのに対し、サムスン電子は2017年2月の自動車部品大手ハーマン買収を最後に、大型M&Aが途絶えている。
対米投資の決定も急ぐことになりそうだ。今年5月の韓米首脳会談を機に、サムスン電子は170億ドル(約1兆8800億円)を投じてファンドリーの第2工場を新設すると発表したが、まだ用地すら決まっていない。
韓国半導体産業協会のアン・ギヒョン専務は「類を見ない半導体投資競争が起きており、ここで脱落すれば長期的に競争力低下が避けられない」として、サムスン電子の思い切った投資決定が急がれるという認識を示した。
成均館大の韓兌熙(ハン・テヒ)教授(電気電子工学)は「サムスン電子は近ごろ、スマホだけでなく半導体でも競合他社の攻勢に直面している。迅速な経営判断を下せる最高経営責任者(CEO)のリーダーシップがいつにもまして切実に求められている」と指摘した。
mgk1202@yna.co.kr